人類に残された正義

カフェ豆店主は小説を読むことができません。もちろん文盲な訳はないですし、本が読めないわけでもありません。ところがなぜかはまったくわからないのですが、その本が小説だったらとたんに読むことができなくなるのです。ですからハイデガーやメルロ・ポンティについての評論は目を皿のようにして読むのだけど、夏目漱石の「坊ちゃん」も「吾が輩は猫である」さえも最初の数ページで断念してしまいます。自慢じゃないが川端康成太宰治も読んだことがありません(笑)。どんなに頑張っても感情移入する前に読み進む気力がなくなってしまうのです。ところが、ところがですね、ただひとり村上春樹さんの小説だけはベツバラ…いや、別物なんですなあ。なぜかはまったくわかりませんが、村上春樹の小説ほど素晴らしいと思える小説はほかにありません。それもそのはず、他の小説を読んだことがないのですから(笑)。最初にであった村上春樹の小説は「1977年のピンボール」でした。それから短編の「カンガルー日和」の面白さを共有できたことで結婚しようと思ったのが今のカミさんです。ですから村上春樹の小説をほかの小説と同じように読むことができなければ、今のかみさんとは結婚していなかったかもしれません(笑)。さてその我らが村上春樹大先生がやってくれましたね〜。もちろんあの「エルサレム賞」受賞スピーチのことですよ。
http://www.47news.jp/47topics/e/93925.php
すばらしい!もう諸手を上げて、そして最高最大の賛辞で讃えられるべき勇気と知性ある行動だと感動しました。一点の曇りもなく同じ日本人の誇りです。どこまでカッコいいんだよ〜。これで彼は間違いないとされていたノーベル文学賞を自分から蹴散らしたわけです。ユダヤの本拠地に乗り込んでユダヤ帝国主義を批判したのですから、ユダヤの財閥がそんな彼にノーベル賞をあげるわけがありません。しかしそうまでしてでもあの場に赴いて言わなければならないと決意したのでしょう。そして彼が言っているのは単にユダヤの蛮行を批判しているだけではなく人間社会の本質を突きつつ、これから我々はどのように生きていくべきなのかという大きな投げかけを世界中に向かって発信したのです。オバマ大統領の就任演説は多くの人の心を捉えましたし、その大部分は本気で言っていることでしょう。が、それはあくまでアメリカの都合のうちにあります。決して悪いとは思いませんが、つまりまともな大統領の演説だと思います。それと比べるののもどうかとは思いますが、今回の村上氏のスピーチと行動はほんとうに偉大だと思います。私は今回の村上氏の行動を「人類に残された正義」だと思いました。この勇気ある行動が、ひとつのきっかけとなって大きな流れに続いていけばと願っています。自分たちでつくったシステムによって殺し合いをする人類にとって、自分の無知を知る勇気と、そのシステムが何なのかを見極める知性こそが必要なのだと。自分たちが世界でいちばん優秀な民族であり、その他は支配されるべき下級の民だという思い上がりの思想、つまり無知の無知こそが世界規模の殺戮を繰り返してきたと思います。それはなにも国際社会のことだけではなく、わたしたちの身近な生活意識の中にもしっかりはびこっているのだと思います。