極北のカフェ

一旦理想を詰め込むだけ詰め込んで、そこからできるかぎり余計なものを削除する。場合によっては必要なものまで削除してみる。すると必要だと思っていたものが単なる思い込みで、ないほうがよかったなんてこともある。で、意外にこんなものがあったらけっこう面白いというのも、いろんなものを捨て去ることによって、ひょっこり顔を出したりもする。じつに面白い。これはもうすでにカフェを超えての面白さだ。で、いろいろ考えあぐねた結果、今のところの考えは極北に達しているといえる。以前紹介したハロルド・バッドのジャケット写真のような白い修道院のような空間の片隅にカウンターがあって、エスプレッソマシンがひとつ。あとはテーブル席が二つ程度。20坪程度の広さに全部で椅子が10脚程度。最初はソファーも考えたが、シンプルな木の椅子のみ。昼間は天井からの自然光だけで、壁には1点だけ絵画が飾ってある。夜は同じような光をライトでつくりだす。メニューは…エスプレッソ。それだけ。あ、それと水。近いイメージがあるとすれば「2001年宇宙の旅」のラスト近くでボーマン大佐が爺さんになったり子どもになったりする真っ白な部屋。あの静けさ。音楽はアンビエントとそれに準ずるクラシックか現代音楽がかすかに。お客はそこで本を読もうが居眠りをしようが時間を気にせずいくらでもいていいとする。さて問題です。街のまんなかに、こんな無愛想なカフェができたとして、あなたは来たいと思いますか?まあ、暇つぶし用にちょっとした美術や哲学の本などは置いておくとして、食べ物もなければアルコールもない。大きな声でのおしゃべりもはばかられる。………来んだろう…来んだろね…うん、来ない。ほんの限られた数人がいつまでも居座るだけかな?(笑)極北のカフェ。ひとつの理想ではあるが、現実味がまるでない。きっと東京だったら人口が多い分、これでも物好きがどこからかワラワラやってくるだろう。長崎じゃやっぱりもって3ヶ月だろうなあ。
さていよいよ明日から10月である。いつまでもだらだらと夢見るのはやめにして、現実との接点を模索し始めよう。極北に行ってしまったカフェを現実というロープで南方におびき寄せるのだ。これが難しい。でも楽しい。もしかしたらまた北へ逆戻りするかも。それはそれでいいから、とにかくじわりじわりとロープを用心深く手繰り寄せてみよう。
極北のカフェにふさわしいBGMはこれだ

シティ・ライフ

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