肴は炙ったイカでいい…じゃないって

みなさん、レスポンスをどうもありがとう。うれしいなあ。いきなりこんな反応があるとはびっくりしました。そうね、最初から現実に縛られたんではろくなものはできない。生意気言うようだけど、単にカフェを経営するのが目的なら、どっかうまいことやってるカフェを徹底的に研究して、それにオリジナリティを加えて、しっかり計算してやればできないことはないだろう。まあ、それでも大変は大変だし、もともと利益率の少ない業種だから、お金儲けのためにするような商売ではない。たぶん今の仕事の方が儲かるんだと思う…いや儲かってないけど(笑)。でもそれを敢えてやるんだから、それなりのことをやらなければ意味がないということだよね。そうそう、だから先日までのカフェの構想は、なんとかうまく経営していくにはどうしたらいいかということにえらく気をつかって、本来の目的を見失ってしまっていた。あれじゃスタバをこじんまりさせて、マニアックな色をちょっとつけたって感じ。こんなのは別に自分がやらなくたっていいし、資本力があれば誰だってできること。あ、そうか、結局自分だからやれるというところというか、他には誰もできないよねってところが欲しいわけだ。営業的にではなく自分の気持ちとしてね。ランチがどうのとか、お酒の種類がどうのというのは、妙にお客に媚びてしまって、自分の思いをどんどん犠牲にしていく作業をしていたわけだ。だから楽しくはあってもだんだん行き詰まってきたというわけ。で、とにかく一度自分のわがままだけで考えようとしたらあんなになったわけで、そのわがままに意外とうれしい反応があったので、とにかくこの方向でもうしばらくいってみよう。
店内の視覚的なイメージだけど、こんなのを考えている。↓

Room

Room

これハロルド・バッドのアルバムジャケットなんだけど、理想を言えばやっぱりこれに近い。さらにBGMもこれ。試聴できるから興味のある人は聴いてみてちょ。でもやっぱりどっちかというとBGMはイーノのほうが好きだな。ハロルド・バッドはいいんだけどセンチメンタルすぎ。内装は南フランスのすごい田舎の修道院の礼拝堂を空っぽにしたみたいな感じ。上からの自然光が神聖で静寂な空気をつくりだす。このあいだからけっこうカフェやダイニングの専門書をかたっぱしから立ち読みして回ってるんだけど、これっていうようなデザインがひとつもない。逆にあったらがっかりするだろうな。で、あらためて自分のイメージに近いものを考えていたら、このジャケットを思い出した。このジャケット写真を撮った人もすごいよなあ。この部屋の奥にぽつんとカウンターがあって、あとはガラーンとしていて、ときどき入ってくるお客さんはひとりか多くてもふたり。みんな思い思いに本を読んだり居眠りをしたりして、この生活とはかけ離れた静寂のひとときを満喫する。礼拝堂と図書館と美術館を合わせてカフェにしたと思えばいいかな。といっても懺悔に来られても困るけど、日常から脱出して心を解放してフラットな気持ちになれるところというと、教会やお寺に近いものがある。なるほど現代人こそがそういった空間を必要としているのだよ(笑)。まあ、それはともかく全体の雰囲気はこれが理想。BGMも鳴ってるかどうかわからないようなアンビエントのみ。飲み物はエスプレッソ。ときどきエスプレッソマシンから出るプシューッというスチームの音が、心にたまっていた重いものといっしょに天窓に向かって蒸発していく。それとおいしい水はいくらでも飲めるようにしたい。ここに来たら気持ちが軽くきれいになるようなイメージ。決して使いたくはない言葉だけど「癒し」なんだろうなあ。アルコール類は思いきって日本酒のみにしよう。日本酒は上質な米のワインなのだから、和とか伝統とかのイメージを取っ払ったフラットな飲み物として銘柄を隠して出す。どこそこの吟醸が…とか、米は山田錦の…などとウンチクを語るようなやつは出入り禁止(笑)。もちろん燗酒に塩辛とか、芋焼酎のお湯割りというのもいいのだけど、ここは思い切って冷酒のみ。もちろん冷酒にいちばん合うお酒をしっかり吟味して出す。さて、おつまみはどうだ。ここまできたら「おつまみ」という概念は取っ払おう。白子ポン酢と焼き味噌をシンプルな備前焼にちょこんと乗せて…なんていうのは粋ではあるし、おじさんの私としては好きだけど、ここではちょっと違うかな(笑)……じゃあ、何だろう…やっぱりそれでいいか(笑)。こうやってシンプルな内容だと、いったん高いレベルにセッティングしておけば、あまり手がかからないで済む。というより高いレベルの空間設定を保つことに神経を集中させることができる。メニューを多くしたり、あれやこれやと多様なニーズに応えようとすると、かえって質を落とすばかりでなく、どこにでもある平凡な飲み屋になってしまう。いや平凡な飲み屋は最初からそれを狙っているのだから、こうなると平凡な飲み屋に負けてしまう。平凡な飲み屋って意外とむずかしいよね。べつに勝負する気はないけど、そこを狙っているわけではないのだから、平凡な飲み屋は平凡な飲み屋さんに任せることにしよう。
そういえば、お店の名前なんだけど「カフェ豆ちゃん」というのは仮の名前ね。まあ、そんなに悪くはないとは思うけど、やっぱりあの空間に「豆ちゃん」はキツイかなと思う。で、これもいろいろ考えたけどなかなかいい名前が出てこない。ひとつ、人の夢と書いて「儚」→「はかな」と読む。もちろん儚い夢のようなこの世という意味で、けっこういいかなと思いきや、ネットで検索したら出てくる出てくるいろんな「儚」。いちばんがっかりしたのは、アキバ系の方々がよく使っていること。なんであの手は世の中を斜めに見ながら現実逃避の世界に浸り込んで他人のつくった倒錯のシステムを自分のつくったものと思い込んでいるのだろう。はっきり言って私は大嫌い。もちろん出入り禁止(笑)。ということで「儚」は没。どなたかいい名前を思いついたら教えてくださ〜い。是非ともこだわるわけじゃないけど、できれば日本語がいいかなと思っている。「あさきゆめみし」というのも考えた。言わずと知れたイロハ唄だけど、これけっこうすごい哲学的な唄なのね。でも昔、少女漫画にあったし、うちのカミさんに大反対されてしまった。私のハンドルネームの「黒糖庵」というのもちょっと恥ずかしい。もしくはそのまんま「cocteau」でもいいかなと思ったりする。昔、ジャズ寄りのカフェを考えていたときには「BLACKSTONE」とか「Brownie」など黒っぽい感じのも考えたけど、今回はお店自体が白っぽい感じだから合わない。そういえば以前、知り合いから頼まれてお店の名前とロゴをつくったことがある。店の中央に大きな熱帯魚の水槽を置くというからundercurrentとつけた。「底流」とか「底に潜む意味」という意味で、ビル・エバンスの名盤のタイトルからいただいた。ふつうの飲み屋さんだったので、今思えばちょっともったいなかったかも(笑)。これっていいよなあああああ…