仕切り直し

いろいろとカフェの具体策を思い浮かべていると、これまで「これだ」と思ってきたことが意外とひっくりかえるようなことになったりする。で、また最初から考え直しということになることもあるので、これは何でだろうと考えると、どうやらこういうことではないかと思い当たってきた。それは理想と現実のギャップを考えすぎて、現実側に偏りすぎたり、理想を求めすぎたりのあいだでフラフラと翻弄されているのである。理想を具体的に近づけると、「これじゃ誰も来ないよなあ」と思ったり、「ではこのくらいでどう?」という妥協点を出すと、なんだかありきたりで、考えてること自体がバカバカしくなってくる。しかしまあ、そうしたことを繰り返しているうちに、次第に自分が何を求めているのかが自分でわかってくるんだろうと思う。理想のカフェをそのまま現実にするとたぶん3ヶ月もたないだろう(笑)。かといってお客さんを確保するという理由でどこまで妥協すればいいのかというものの考え方から抜け出さなくてはいけない。今回のカフェの目的はお金儲けではない。でも損していては続けられない。結局、そんなに儲けなくていいから、やはりやりたいカフェをやるんだというところに近い方向でやろう。ただまったく儲けないというのは単なるひとりよがりというだけなのだから、そのあたりの見極めと言うのが、たとえ小さなカフェとはいえ難しいものである。たとえばフードメニューを考えていた。カフェにおしゃれな食べ物はつきものなのだが、カフェ豆ちゃんではどんなフードメニューにするのかを考えているうちに、だんだん売上金額のことが気になりだして、一日10食限定のランチメニューで客寄せと告知の効果をねらったらどうだろうと思い、ここはひとつ話題のマクロビオティックの料理を売りにしてはどうかと、いろいろと計算をしてみた。材料費、人件費、食材の仕入れルート、調理のローテーションと効率、食器の費用、サラダやデザートの手間、セットメニューの価格設定、バイトやお手伝いの手配…1日10食の限定ランチを出すのに、たいへんな時間と労力がかかって、本来の業務に負担がかかりすぎることがわかった。それといくらマクロビオティックとはいっても、中途半端にできるようなことではないし、ランチのイメージがかえってカフェのイメージを違ったものにしてしまうんじゃないかと思い直してきた。したがって、基本的にランチという考え方はしないということで考えていこう。流行り物に手を出すような中途半端なお店というイメージができてもまずい。ここはひとつぐっとおさえて、空間のクオリティがどうしたら維持できるかという視点で全体のメニューを検討してみることにする。
最初に書いたようにメインはエスプレッソコーヒーだ。したがってそれをベースにいくらでもバリエーションがつくれるのだけど、できるだけメニューの数は少なくしようと思う。たとえばコーヒーならエスプレッソ、カフェラテ、カプチーノキャラメルマキアートとそれぞれのアイス。もうそれだけ。カプチーノの表面にハートやクマの絵を描くなんてことはしない。挽きたてのちょうどいい温度のコーヒーの素晴らしい味と薫りを堪能してもらいたいからだ。あのコーヒーにはそれだけのこだわることのできるクオリティが備わっている。それでもまったくフードメニューがないというのもサービス不足だし、売上的にもかなり不安である。お客様にはできるだけゆったりと長い時間過ごしてもらいたいので、ひとくちで飲んでしまうエスプレッソだけではまずいかもしれない。そこで考えたのがお菓子。それも手作りマクロビオティックスウィ―ツ。ランチとちがってスウィ―ツなら材料も揃えやすいし、開店前に準備ができる。そしてお菓子作りは妻が得意なので、オープンまでに試作を繰り返しながら最適なメニューを絞り込んでいくことにした。完全無農薬有機の米や麦を使い、添加物はもちろん、卵、砂糖、牛乳も使わず、それでいてそのへんの砂糖たっぷりのお菓子よりもおいしいもの。これに有機無農薬のお茶や生ジュースのメニューを増やすというのはアリだろう。コーヒーに使う雲仙から汲んでくる水はいくらでも飲めるようにする。これで午前11時から夕方までのメニューにしたい。
さて夕方から夜にかけては昼のメニューに加えてアルコールメニューが登場する。これもずいぶん悩んだが、今のところ軽く飲めるような空間にしたいと思っている。かつてのジャズ喫茶の程度である。ビール、日本酒、焼酎を選びに選んだ各2つの銘柄だけ。おつまみも5種類くらいを日替わりで準備する程度。飲み屋さんのようなチャージはとらない。ただしワンショットでの販売のみ。だから昼間っから店の片隅でビールを片手に文庫本を2、3冊読んでしまうようなお客さんがいてもいっこうにかまわない。ただ大勢で押しかけて大騒ぎして一気飲みしてぶっ倒れるような学生にはご遠慮いただきたい(笑)。まあ、そんな雰囲気にはならないとは思うけど。あ、それとカクテルも簡単なものはつくる。私自身けっこう好きなので(笑)。でもなにやら難しいのは無理。というかそういうのはほんとのバーテンダーのいる店へということにさせていただこう。

さあて、ここまで書きながら、やっぱりかなり無理をして妥協している自分がいる…。これじゃ普通のどこにでもある軽く飲める喫茶店と同じではないか。もっと無理でもいいから理想からはじめないとね。で、現実を一度無視して、こんなところだったら自分は絶対行くぞという空間を思い描いてみよう。仕切りなおしだ。
まずそこそこ広い空間。高い天井。そしてほとんど何もない空間の片隅にかなり広めの一枚板のカウンター。幅1メートル、長さ5メートルのカウンターに椅子が5つだけ。壁はオフホワイトの漆喰塗りで、ひとつの壁にはそれぞれ1点だけシンプルな絵画がかけてあり、そこだけしっかりとスポットライトがあたっている。床は暗めの色の天然木。つまり美術館の一室を真っ暗にして、4点の作品がそれぞれの壁に1点づつかけてあるようなもの。音楽は完全にアンビエントのみ。ブライアン・イーノハロルド・バッド、その他アンビエント系テクノなど。ボサノバもジャズもなし。飲み物は最高級マシンから抽出されるエスプレッソと新鮮な天然水のみ。カプチーノもジュースもなし。スウィ―ツとかフードメニューなんてもってのほか。窓はない。もちろん禁煙。マイナスイオン空気清浄機と酸素発生機で常に空気はきれいに保たれている。おいそれと世間話のできるようなヤワな雰囲気ではない。ただ広い床にはところどころスポットライトがあてられていて、そこに好きな格好で本を読むことができる。ひそひそぐらいなら話もできる。ある種の緊張感と日常では味わったことのない開放感。このかなりきわどい雰囲気を心から楽しめる人を選ぶカフェである。ホームページやフリーペーパーに関しては同じ。加えてアート関係のトークライブやパフォーマンスなどはできるかぎりやりたいし、カフェ主催のアートコンペもやれればいなあ。ほとんど現代美術館だな(笑)。
どうだろう、だめ? …だめだよねえ〜、大都会ならこんな嗜好の人間もある程度いるから成り立つだろうけど、長崎じゃね、お化け屋敷じゃなかったら変態クラブかなにかと勘違いされそう(笑)
でもこれのそのままが無理でもいままで書いてきたものとこれの中間ぐらいまではなんとかもってけたらなあと思っているんだけど、どうかなあああああ…