明日から「明坂尚子作品展」


いよいよ明日から始まる「明坂尚子作品展」。今日はまる一日かかっての展示作業。もともととても大きなスケールの作品なので、カフェ豆の展示スペースでは収まりきれるはずもないのですが、なんとか収めていただきました。こうしたいわゆるインスタレーションと言われる作品は、その場に展示したときだけ見ることのできるものです。ですから作品との出会いというのもまさに一期一会。作品が素晴らしいものであればあるほど、とても偶然とは思えない巡り合わせを感じさせてくれます。
今回カフェ豆のスペースにあわせて、繊細で気の遠くなるような作業をされて望んでいただきました。ほんとはカフェをお休みして、お店全体をギャラリーにしてしまいたいくらいですが、まあそうもいきませんので(笑)。
 




今回の明坂尚子作品展にはサブタイトルがついています。「たけんくぼ四四八番地 あの日地図から消えたまち」です。「たけんくぼ」とは竹の久保という長崎の浦上に近い町名です。「あの日」とは昭和20年8月9日です。この作品には一遍の詩が添えられています。その詩をここでご紹介します。

たけんくぼ四四八番地
あの日地図から消えたまち

梁川橋を渡って
まっすぐ行ってください。

淵学校の丘に上れば
樟の香りが漂いませんか?
波布茶畑の下では
小川が黄色い風の歌を
うたっていませんか?
ほうき草の畑は
赤とんぼ色に
空が染まっているでしょう?

梁川橋を渡って
まっすぐ行ってください。

ねこじゃらしの茎を
草いちごで真っ赤にして大事に抱えた
紺のモンペのかなこに
逢いませんでしたか?
すかんぽの花抱いているのは
まさこです。
あの子の目は空の母さん映して
泣き虫涙になってませんでしたか?
ねぎ笛が聞こえてきたら
夏蜜柑の木の下に
きっとふみこがいるはずです。
秋がそっとやって来るころ
ヘンブを追い回してたひできも
いっしょにいたでしょうか?
梁川橋を渡って
まっすぐ行ってください。

橋を渡って
まっすぐ歩いてきたのです。
草いちごは
どこに実っているのでしょうか?
すかんぽの花は
どこに咲いているのでしょうか?
ねぎ笛も聞こえてはこないのです。
秋になると
ヘンブは飛んでくるのでしょうか?

ここは竹ノ久保町四四八番地。
遠くなったあの日
地図から消えてしまった町。

ひらひら
すかんぽの花。
はらはら
風が運ぶ草いちごの香り。
駆けていく
駆けていくひでき九歳。
駆けていくかなこ九歳。
駆けていくまさこ十歳。
あとを追うふみこ。

長崎市竹ノ久保町四四八番地。
地図から消えてしまった町。
 
以上です。ところで昨年の夏から、長崎のさまざまな文化を紹介する100ページ以上の季刊誌が発刊しました。名前を『樂(らく)』といいます。長崎市内の本屋さんで見られた方もいらっしゃるでしょうし、なにかと話題にもなっていますのでご存知の方も多いでしょう。じつはその『樂』に私も加担しておりまして、毎号、長崎で活躍する美術家・工芸家を紹介する「ながさき美の探訪」というページを担当しています。長崎を拠点に全国的・世界的に活躍している作家は決して多くはありませんが、決していないわけではなく、ただそれほど知られていないのが現状でありまして、不肖わたくしが知る限りの、そしてお話がうかがえる方にお願いして連載しております。じつはその創刊号に今回の明坂さんに登場していただきました。そこに載せた文章で、明坂さんの作品の説明がいくらかでもされているかと思いますので、もう掲載されて半年経ちますので、ここに文章だけご紹介しますね。
 
 おそらく彼女の作品を前にして誰もがストイックという印象を持つであろう。しかし洗練され抑制された素材と構成、見るものを圧倒するほどのダイナミックなスケールで展開される明坂氏の作品は、工芸や美術といったカテゴリーを軽やかに越え、さらに表現に対する強靱な意志をも感じさせる。これ以上はないと思われるほどの優しい眼差しと、消えてしまいそうな華奢な身体のどこにこのようなパワーがあるのだろうか。
 長崎で生まれ育ち、昭和20年の原子爆弾投下によって肉親を失い、自らも原爆症という想像を絶する苦しみと哀しみを乗りこえながら、彼女はここ長崎の地で弛みなく、そして力強く表現活動を続けている。
彼女のつくりだす抽象的な美の根底にあるものは、常に子どもの頃に過ごした家族や友だちとの想い出と、あの頃の長崎の風景がある。彼女の作品は、かけがえのない命の煌めきと、そしてそれらを一瞬にして奪われたことの喪失感を、60年という歳月の中で昇華していく道のりそのものではなかったろうか。
10分の1ミリという細さのステンレスの糸が精緻に編み上げられ、まるで天空に舞うオーロラのように輝やく。それは視覚的な美しさの効果のみを目的に作られたようなうすっぺらなものではなく、まさに喜びや哀しみや遥かな時の流れも含めた命の輝きそのものである。生きていることは喜びでありながら苦しみでもある。しかしそうしたすべての思いを引き受けた上で見えてくる美しさというものが、彼女が紡いでいく糸の一筋ひとすじにこめられているに違いない。
 
なお季刊誌『樂』は来週にも第三号が発行予定です。長崎市内の書店で購入できますし、もちろんカフェ豆でも販売しています。1,260円です。『樂』に関しては、また別の機会にまとめてご紹介しますね。
 
さあ、それにしても凄い展示になりました。「カフェでここまであり?」とも思える作品の存在感。正直「とうとうここまでやっちゃったか」と思いました。ただ単に気軽にコーヒーを飲みにきた人はちょっとびっくりかも。でも決して驚かないでください。この本物のアートな空間を味わっていただきたい。展示作業を終えて、今ひとりでライティングの最終調整をやっています。BGMはフリップ&イーノの歴史的名盤「ノープッシーフッティング」

ノー・プッシー・フッティング 2008リマスター・ヴァージョン(紙ジャケット仕様)

ノー・プッシー・フッティング 2008リマスター・ヴァージョン(紙ジャケット仕様)

この知る人ぞ知るロック史上に燦然と輝く名盤に負けてない。
次に鳴らしたのが同じくフリップ&イーノの「イヴイング・スター」
イヴニング・スター 2008リマスター・ヴァージョン(紙ジャケット仕様)

イヴニング・スター 2008リマスター・ヴァージョン(紙ジャケット仕様)

これが今回の作品にはぴったりの音ですね。さすがにカフェの営業中にかけるにはマニアックすぎてNGですが、とにかくこのテンションに決して負けない作品の完成度です。
「フリップ&イーノを聴きながらこの作品を鑑賞したい」というディープな方は午後7時以降にご来店くだされば堪能できます。この超硬派なロックこそ極北のカフェにふさわしいBGMであります。ただ今の時点でここを突っ走ると営業的にすぐに破綻します(笑)。ですからあちこちに回り道をしながら、徐々に徐々に、ゆっくりと、それでも確実に精神の北へ向かおうとするカフェ豆です。今年のギャラリーもすごいぞ〜!
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カフェ豆は日曜から3日間のお休みでした。この3日間にカフェ豆においで下さったお客様、どうも申しわけございません。明日からまた真面目に普通通りに営業しますので、これに懲りずにおいでください(笑)。明日のパスタランチは久々にボローニャ風ミートソースパスタにニンジンと大根のスープ、クルミパンとスペシャルティコーヒーです。おかげさまでティラミス人気です。お客様に喜んでいただくと、すぐ調子にのって大盛りにしちゃうカフェ豆店主です(笑)。ふと気がつくと、ティラミス発売当初より確実に1.5倍にはなっています。でも喜んで食べていただいてるのでヨシとします。だんだん大きくなりつつあるティラミス。まだ食べたことないというそこのあなた!だまされたと思って食べてごらんなさいって。で、明日は「よかナビ」というネットのクチコミ紹介サイトのバレンタインデー特集の資材があります。カフェ豆はバレンタインデー特別スイーツとして、勢いで大きくなったついでにダブルサイズティラミスを出しちゃいます!もちろん値段はそのまま、大きさ2倍でどうだっ!それから、もうすぐ新しいドリンクメニューが満を持しての登場です。…まだ秘密です(笑)。ギャラリーとしても画期的な企画展を連発しているカフェ豆ですが、カフェメニューもあなどれないのでございますよ。